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Menu Rococo(思うに至る)



    フランス王朝文化の花開いた時期の中でも一際華やかな”ロココ(Rococo)”。この時代は、ルイ王朝の絶対王政の揺ぎ無い時代の最後の輝きでもありましたが、才智溢れる女性達による”女の時代”でもありました。
    その筆頭格は、かの有名な”ポンバドール婦人(Pompadour)”。彼女は、当時としてはブルジョア階級の生まれでしたが、貴族の子弟以上の教育を受けて身に付けた能力をいかんなく発揮します。
    政治に関心の薄かったルイ15世に代わってオーストリア承継戦争やアメリカ大陸でのフレンチ=インディアン戦争を始め、フランスを取り巻く各種の外交・戦争を指導します。(彼女の働きでフランスのブルボン家とオーストリアのハプスブルク家の仲が同盟関係に代わった事を”外交革命”と呼ぶ)
    また、フランスの文化的水準の向上のために百科全書派を保護したり、リモージュ窯に力を入れるなど、フランスをして文化大国としての下地を作ったのも彼女の影響によるところが大でしょう。(リモージュには、”ポンパドールカラー”と呼ばれる幻のピンク色があった)


    (左)デュバリー夫人(中)ルイ15世正妃マリー=レクスチンカ
    (右)ロココの華 ポンパドール夫人




    ポンパドール婦人亡き後、ルイ15世の寵愛を得たのはデュバリー夫人(Dubarry)。
    彼女はポンパドールの様な才覚は無かったものの、社交的で朗らかであったためにルイ15世が死ぬまで寵姫の座を維持します。
    彼女が有名なのは、後の国王ルイ16世のお妃となるマリーアントワネットとの鞘当てでしょう。
    高貴な生まれのマリーアントワネットが、王の愛妾(courtisane:クルティザン)と言う立場で宮廷の華だったデュバリー夫人に嫌悪したのは無理からぬ事でもあったでしょうが、幾度のツバぜりあいの後、最終的にはデュバリー夫人の勝利となってしまいます。
    この辺は、”経験値”と”度胸の差”とでも言うべきところでしょうか。そんな彼女の名前を冠して、彼女が好きだったとされる「カリフラワー」を使った料理に”Dubarry”と言う名前が付けられています。

    そして、一番影が薄いけれども誠実な人柄でルイ15世の信頼を得ていたのはマリー=レクスチンカ。彼女が産んだ子供の孫がルイ16世となる様に、ブルボン家のお世継ぎを産んだのが彼女でした。もっとも彼女よりも、実はその父親であるスタニスラフと言う人物の方が有名な感はあります。 彼は、元々はポーランド王として一国を治めていたのですが、スウェーデンとの北方戦争によって故郷ポーランドを追われ、ルイ15世の許に亡命をし、領地を与えられて余生を過ごす事になるのですが、彼の娘(レクスチンカ)がルイ15世の正妃となるについては、元王様とはいえ今は亡命中の位置づけもあり宮廷内での異論等もあったのか、娘の立場をよりよくするために労を惜しまなかったと言われています。 その中でも彼自身が料理好きだったこともあり、色々と彼が関わったとされる料理が残っています。

    と言う具合でエピソードも豊富な女性達(と父親)の色めくフランス宮廷を思いながらフランス料理を食べるのはとても楽しいだろうなぁと言う事で、ロココ時代にちなんだフランス料理を食べてみたいと思い、再び、A ta gueule の曾村譲司氏にお願いをして作って頂く事にしました。
    とは言え、只、ロココでメニューをと言っても作る方は大変な事なので、ある程度食べ手の側も輪郭を作る必要があります。
    と言う事で、考えた【構想】が以下のくだり。




    ロココ メニュー案
    (平成31年2月某日)

    ポンパドール婦人を表わしたもの

    デュバリー夫人を表わしたもの

    マリー=レクスチンカにちなんだもの

    +スタニスラフ王にちなんだもの


Menu Rococo 具体的なメニューの構想の趣旨


    さて、2月と言う事でフランス料理ではジビエの真っ盛り。
    ジビエは野生の動物と一括りにされてしまう事もあるけれども、この狩猟シーズン一番のお愉しみは、やはり”野兎(リエーブル:lievre)”。ジビエの王様を”鴫(シギ:ベキャス:becasse)”とすれば、”野兎”はジビエの女王と言う位置づけ。
    ポンパドール婦人を”女王”、ルイ15世を”王”と見立てて、「野兎」と「鴫」でメニューをとも考えましたが、今回は”女性の時代”をモチーフにしたい事もあり、ベキャスと言うかルイ15世には登場を願わず、”野兎”を軸にメニューを考えて行く方針は直ぐに決まりました。
    とは言うものの……この野兎……実は、そんな簡単には入手出来ない、当に”人見知りの女王”。何より、美味とされる「雪兎」は雪が深くてもダメ、浅くてもダメ、と言う我が儘な生き物なので、今回のメニューは獲れたら実行と言う、言わば条件付きな設定でもあったので、兎が獲れなければ来年かしらんなどと想いつつ。
    可愛らしく狡猾に、そして優雅な……このポンパドールのイメージと野兎は合致するものがあります。
    また、この野兎を軸に持って来たのは、昨年(2018年)曾村氏が作った野兎の料理(lievre ala royale)が素晴らしかったので、是非とも今年も食べたいと言う事もあった訳です。

    さて、主軸をリエーブルにして、他の方達の構成も考えていかねばなりませんが、デュバリー夫人は、その名前を冠したそれこそ有名な”カリフラワーのスープ”があるので、それを念頭にお願いをして。

    もう一人のマリー=レクチンカの方は、彼女の事を表わす意味で、父君のスタニスラフ王が彼女が宮廷で目立つように作った(作らせた)”ブーシュ・ア・ラ・レーヌ(bouche ala reine)”をお願いする事に致しました。
    そして、デセールについては、ロココ由来の色々なものが頭に浮かびましたが、どうしても”ポンパドール”、”デュバリー”のイメージが強過ぎる「ロココ時代」でもあるので、”正妃”に敬意を払うと共に、常に正妃が注目を集める事が出来る様に労を惜しまなかった”スタニスラフ王”に一目置くうえでもスタニスラフ王由来のお菓子で、この”ロココ”と言う名前の語源にもなった「貝殻のマドレーヌ」を作って頂く事にしましょうと考えたのでした。

    最後に出来上がったこの素案を a ta guele の支配人市川さんにも目を通して頂いて、最終的な内容や仕様は曾村シェフにお任せする運びとなりました。