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Menu アイーダ[副題:ビクトリア時代の栄光](思うに至る)



    丁度3年ほど前の2016年5月、アタゴール(A ta guele)で非常に美味しいカレーを頂きました。

    日本に古式ゆかしいフランス料理を伝えた”サリーワイル(Sali Weli)”風のカレーでしたが、エジプトのピラミッドを彷彿させるその姿に、美味しさだけでなくその意匠に脱帽をしたのでしたが、再びそのカレーを食べたいと言う思いが沸々と湧き上がってきました。
    ただ、同じ内容のメニューをお願いするのは芸が無いので、これを軸にして練ったものを考えるべきだろうと思いました。
    「黄金に輝くピラミッド」……これをベースにして何かエジプトに纏わる事をメニューに盛り込めないか……
    その際に、一つ閃くものがありました。【sole aida】。そんな素晴らしいメニューがあるではないですか。
    「エジプト」→「ピラミッド」→「アイーダ」……これを巧く繋いでフランス料理をして一大叙事詩にしよう……そんな意欲的な挑戦でもありました。

    華やかなベルエポック期(19世紀後半~第一世界大戦前)、「太陽の沈まぬ国欧羅巴」と言われたヨーロッパの繁栄を支えた要因の一つには、大英帝国による【パックスブリタニカ(Pax Britanica)】の影響を挙げる事も出来ます。 国王を戴きつつも、巧みな政治手腕と議会制民主義によって運営された大英帝国は、世界各地に勢力圏を持ち、「太陽の沈まぬ国」と呼称もされました。

    時は1869年、フランス人 フェルディナント=レセップスによりエジプトにスエズ運河が開通。

    (大航海時代以来の、欧州から遠く危険なアフリカ経由での航行では無く、ヨーロッパの中海である地中海を通ってアジア地域への航行を可能にしたスエズ運河。 運河自体がもたらす恵みは、エジプトへのもう一つの賜となろうとする反面、その軍事的、政治的、経済的なな重要性は、オスマン=トルコから独自の地位を築いていたエジプトに列強の介入のもたらす事になります。)

    1972年、エジプトを支配するムハンマド=アリー朝の5代目君主、イスマーイル=パシャにより依頼された”アイーダ(Aida)”がカイロで上演。
    1975年、エジプトの財政難に伴い、イギリスのディズレーリ内閣によるスエズ運河買収……

    本来、エジプトに恵みをもたらす筈だったスエズ運河は開通して6年余りでエジプト人の手から離れる事になりました。 エジプト王ラダメスとエチオピア王女アイーダが織りなすこの物語は、このエジプトとスエズ運河の行方と重なって、一層”悲劇”としての価値を高めたと思うのです。
    それゆえ、今回のメニューには、この【アイーダ】が象徴するエジプトの悲劇と、エジプトのスエズ運河を手に入れた事で繰り広げられた大英帝国の世界戦略の一つである3C政策について表して行く事をも盛り込んで行こうと考えたのでした。

    (左)ディズレーリ
    (中央)アイーダ
    (右)ヴィクトリア女王










    ”アイーダ(Aida)” メニュー案
    (令和01年06月某日)

    "Barquette Vitoria"(大英帝国当時の君主であるビクトリア女王を表すものとして)

    "Aida turobot"(今回のメインテーマでもある【アイーダ】を表す料理)

    "Riz safrane au curry en pyramide a la Sali Weli"(エジプトのピラミッドカレー)

    "Souffle Rothschild"(スエズ運河買収の資金を出したイギリスロスチャイルド家を表すものとして)


    上記の内容をベースにアレンジをお願い致しました。

Menu アイーダ 具体的なメニューの構想の趣旨


    大英帝国による【パックスブリタニカ(Pax britanica)】と言う黄金期は、ヴィクトリア女王(1837~1901)の治世下の時代。
    その時代は、保守党のディズレーリ、自由党のグラッドストーンと言う、有能な二大巨頭による議会政治の黄金期でもあり、また世界の各地に勢力圏を持ち、【太陽の沈まぬ国】と言う呼称をされた時期でもあった。
    そんなヴィクトリア女王の名前を冠したメニューは、実は幾つもあり、なかなかに選ぶのが難しくもあったが、やはり「海軍力のイギリス」と言う事から、ここは「舟形の」と言う意味を持つ"Barquette Vitoria"(舟形のパイ)を選ぶのがメニューの主題にも沿うだろうと考えた。

    次に、"Aida turbot"、【アイーダチュルボ】と言う事で、魚料理と言う事になりますが、【Aida】の名前を冠したものは、この魚料理の他にデザートとして"Souffle Aida"なるものもある。しかし、今回のメニューのメイン格であり、言わばメニュー構想の原動力でもあったことから、ここはストレートに、"Aida turbot"で行こうと考えたのでした。

    "Riz safrane au curry en pyramide a la Sali Weli"。これも今回のメニュー構想の原点にもなった一品でしたので、3年前と同じような内容でと考えた訳ですが、今回のメニューとの絡みで言えば、「エジプト」「カレー」と言う事で、【カイロ(Cairo)】【Curry:カレーと言えば印度→カルカッタ(Calcutta)】が潜んでいます。
    大英帝国の進めた有名な【3C政策】は【カイロ:Cairo】【カルカッタ:Calcutta】【ケープタウン:Capetown】の3つの都市の頭文字に由来する世界戦略でした。この”カレー”にもう一つ、【ケープタウン】を象徴するものを付加するかどうか?が大いに悩みどころではありました。もし、このカレーで3つの都市が揃えばそれはそれですっきりともするのですが、とは言え、料理の本旨は美味しい事でもあるし、実際に作る段での料理や構成とのバランスもあるので、特にここで【ケープタウン】に拘る事は避けて、ここか次のデセールで【オレンジ】の要素を盛り込んで頂ければ、と言う事に止める事にしたのでした。

    (【ケープタウン】を表象するものとして何にすべきかは少々難題の一つでした。単純に南アフリカの産物と言う事で「ワイン」や「ルイボスティー」なども頭に浮かびましたが、何分、ワタクシはアルコールがダメな事もあるので「ワイン」は難しいし、「ルイボスティー」も何に使えば良いのか?と言うのもなかなかピンと来ない部分だったので、両方とも外す事にしました。南アフリカの歴史的な側面と言う事を考えると、「セシルローズ」と言う名前や、彼に由来する「ローデシア」と言うものも浮かびましたが、今の時代に「ローデシア」でもあるまいと言う事から、南アフリカの成り立ちの一つでもある【オレンジ自由国】と言う部分から【オレンジ】を使おうと言う事に自分的には決めたのでした。)

    そして、最後のデセールには"Souffle Rothschild"を。【スフレロチルド】はかの有名なロスチャイルド家の事を指します。フランス料理のメニューの中には幾つかロスチャイルドの名前を冠した料理がありますが、それ自体、古典中の古典の料理であって、それ一つ作るのに途方もない材料と労力がかかるモノが多かったり、日本では調達が難しい素材だったりもしたので、一番実現が可能なものとしてのスフレを選ぶことにしました。
    (実は、スフレには個人名である"Souffle D'Ecrevisses Leopord de Rothschild"なるものもあるが、レオポルド=ロスチャイルドは残念ながらスエズ運河買収の時のロスチャイルド家当主の名前では無いので(その時の当主ライオネルの息子にあたる)今回は外す事に)

    と言う事で、相当にワガママかつ作る側の事を考えない超絶強引な設定になったメニュー構想。
    後は、この素案を、a ta guele の支配人市川さんに目を通して頂いて、最終的な内容や仕様は曾村シェフにお任せする運びとなりました。